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東京地方裁判所 昭和60年(特わ)3736号 判決

本店所在地

東京都中央区勝どき二丁目八番一二

法人名

朝日食品株式会社

右代表者代表取締役

茂木弥一郎

本籍

茨城県行方郡牛堀町大字島須四二八番地

住居

同県同郡牛堀町大字上戸五五九番地の九

会社役員

茂木弥一郎

昭和六年三月一五日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、審理して、次のとおり判決する。

主文

一  被告人朝日食品株式会社を罰金四〇〇〇万円に、被告人茂木弥一郎を町営機一年二月に、それぞれ処する。

一  被告人茂木弥一郎に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人朝日食品株式会社(以下被告会社という。)は、東京都中央区勝どき二丁目八番一二に本店を置き、納豆の製造販売等を目的とする資本金一億五三〇〇万円の株式会社であり、被告人茂木弥一郎(以下被告人という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているのであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上や期末材料たな卸高を除外したり、架空仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五六年九月一日から同五七年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額がい億七一〇二万二八八七円あった(別紙(一)昭和五七年八月期の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五七年一〇月三〇日、東京都中央区新富二丁目六番一号所在の所轄京橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億四七三〇万〇二八八円でこれに対する法人税額が五九一八万円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六一年押第一九六号の1)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億一三三五万四七〇〇円と右申告税額との差額五四一七万四七〇〇円(別紙(四)脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五七年九月一日から同五八年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億二四五八万八八〇九円あった(別紙(二)昭和五八年八月期の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五八年一〇月三一日、前記京橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億五六三四万五八四四円でこれに対する法人税額が六一一三万四七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額九三五七万六一〇〇円と右申告税額との差額三二四四万一四〇〇円(別紙(五)脱税額計算書参照)を免れ

第三  昭和五八年九月一日から同五九年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億〇三三八万九五三四円あった(別紙(三)昭和五八年八月期の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五九年一〇月三一日、前記京橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八一七七万五三八一円でこれに対する法人税額が三四三五万五四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額八七五一万九一〇〇円と右申告税額との差額五三一六万三七〇〇円(別紙(六)脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の

(イ)  当公判廷における供述

(ロ)  検察官に対する各供述調書

一  岡本忍及び渡辺和義の大蔵事務官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の調書

(イ)  製品製造原価調査書

(ロ)  製品製造原価試験研究費調査書

(ハ)  価格変動準備金繰入損調査書

(ニ)  事業税認定損調査書

一  京橋税務署長作成の証明書

一  登記官作成の商業登記薄謄本四通

判示第一の事実につき

一  収税官吏作成の次の調査書

(イ)  販売手数料調査書

(ロ)  役員賞与調査書

(ハ)  役員賞与損金不算入調査書

一  押収してある昭和五七年八月期法人税確定申告書一袋(前同押号の1)

判示第二の事実につき

一  収税官吏作成の次の調査書

(イ)  製品製造原価期首材料たな卸高調査書

(ロ)  修繕費調査書

(ハ)  事業税認定損戻入益調査書

一  押収してある昭和五八年八月期法人税確定申告書一袋(前同押号の2)

判示第三の事実につき

一  収税官吏作成の次の調査書

(イ)  厚生費調査書

(ロ)  固定資産除却損調査書

一  検察事務官作成の報告書

一  押収してある昭和五九年八月期法人税確定申告書一袋(前同押号の3)

判示第一及び第三の事実につき

一  収税官吏作成の製品製造原価期末材料たな卸高調査書

判示第二及び第三の事実につき

一  収税官吏作成の次の調査書

(イ)  売上高調査書

(ロ)  製品製造原価当期材料仕入高調査書

(ハ)  製品製造原価償却費調査書

(ニ)  製品製造原価修繕費調査書

(ホ)  雑収入調査書

(ヘ)  受取利息調査書

(ト)  価格変動準備金戻入益調査書

(法令の適用)

法律に照らすと、被告会社の判示各所為は、法人税法一六四条一項、一五九条一項にそれぞれ該当するところ、情状によりそれぞれ同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項によりそれぞれの罪につき定めた罰金の合算額以下において被告会社を罰金四〇〇〇万円に処する。

被告人茂木の判示各所為は、法人税法一五九条一項にそれぞれ該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択するが、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で同被告人懲役一年二月に処し、情状を考慮し、同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、納豆の製造販売業界において最大のシェアを誇る被告会社の代表取締役である被告人茂木が、被告会社の業務に関し、三期分合計で一億三九七〇万円余の法人税を免れたという事案であり、そのほ脱税額が高額であるうえ、税ほ脱率は通算で四七パーセントを超えており、同被告人の納税意識は甚だ低いものと評さざるを得ない。

被告人茂木は、昭和三〇年代から納豆の製造販売を業とし、昭和四六年に被告会社を設立し、納豆業界の好況にも支えられてその事業を拡大し、同五三年八月には払込資本金を一億五三〇〇万円とし、従業員約三四〇名を擁する企業に成長させたものであるが、更に企業の基盤を強化し、運転資金を確保することを主たる目的として本件犯行に及んだものであり、動機においてとくに斟酌すべきものはなく、その脱税の手段も、昭和五七年八月期においては、主として期末材料棚卸高の圧縮による製造価格の水増し計上、同五八年八期においては、主として製品の売上及び雑収入の除外並びに修繕費の架空計上等、同五九年八月期においては、製品の売上及び雑収入の除外のほか、原料の架空仕入、期末棚卸高の圧縮及び修繕費の架空計上による製造原価の水増計上等に及んでおり、その内容が多岐に亘るうえ、被告人みずから架空仕入を計上するため相手方から架空の契約書や領収書を徴したり、経理担当者に指示して不正の経理操作をさせるなどその態様も悪質であるといわなければならない。右のほか、被告人は本件の税務調査開始後、仮装経理内容を隠ぺいするための罪証隠滅工作をも行っていたことが認められるのであり、以上によれば同被告人の刑事責任は軽視することができない。

しかしながら、他面、被告人は、昭和三〇年代から納豆製造業に専念し、その努力と経営手腕によって前記のような被告会社の地位を築き上げて来たものであり、被告会社の成長に伴い経営体質の近代化が遅れていたため、被告人の独断専行により本件犯行に至ったものの、本件の動機は前記のとおりであって、被害人の個人的利益を目的としたものではないこと、本件によるほ脱所得額は、昭和五七年八月期において一億二三〇〇万円余、同五八年八月期においては六八〇〇万円余、同五九年八月期においては一億二一〇〇万円余であり、被告会社の年間売上高の三パーセント程度であり、被告会社の資本金額等からみても必ずしも大幅な所得隠しというわけではないこと、また脱税の手段は前記のように多岐に亘るとはいえ、前記における期末棚卸高の圧縮に伴い、翌期において期首棚卸高が過大となり製造原価が過少となることを防ぐために行った部分も存すること、被告人は、本件の査察調査を受けて以来、本件犯行を一貫して自白し、深く反省しており、犯行に伴う薄外の経理処理を全面的に改めたほか、社内の経理体制を改め、公認会計士による監査も強化されていること、本件の脱税結果については、被告会社において修正申告のうえ、本脱、延滞税及び重加算税を完納しており、地方税についても賦課決定のあり次第完納すべく準備をしていること、本件脱税が報道されたことにより、被告会社は、取引先の一部から取引停止を受けるなどの社会的制裁も受けていること、被告人には昭和四〇年に業務上過失傷害罪により罰金刑に処せられた以外には前科・前歴がないことなど被告人のため斟酌すべき諸事情も認められるので、以上を総合勘案して被告人に対し刑の執行を猶予することとした次第である。

(求刑被告会社につき罰金四五〇〇万円、被告人につき懲役一年二月)

出席検察官 中原恒彦

弁護人 安田道夫(主任)、田村秀策

(裁判官 小泉裕康)

別紙(一) 修正損益計算書

朝日食品株式会社

自 昭和56年9月1日

至 昭和57年8月31日

〈省略〉

別紙 修正損益計算書

朝日食品株式会社

自 昭和56年9月1日

至 昭和57年8月31日

〈省略〉

別紙(二) 修正損益計算書

朝日食品株式会社

自 昭和57年9月1日

至 昭和58年8月31日

〈省略〉

別紙 修正損益計算書

朝日食品株式会社

自 昭和57年9月1日

至 昭和58年8月31日

〈省略〉

別紙(三) 修正損益計算書

朝日食品株式会社

自 昭和58年9月1日

至 昭和59年8月31日

〈省略〉

別紙 修正損益計算書

自 昭和58年9月1日

至 昭和59年8月31日

〈省略〉

別紙(四) 脱税額計算書

会社名 朝日食品株式会社

自 昭和56年9月1日

至 昭和57年8月31日

〈省略〉

(注) 1 課税所得金額欄中( )書は所得金額を表わす

2 昭和59年4月1日から同61年3月31日までの間に終了する各事業年度の所得は下段の税率を適用する 措法第42〈1〉

別紙(五) 脱税額計算書

会社名 朝日食品株式会社

自 昭和57年9月1日

至 昭和58年8月31日

〈省略〉

(注) 1 課税所得金額欄中( )書は所得金額を表わす

2 昭和59年4月1日から同61年3月31日までの間に終了する各事業年度の所得は下段の税率を適用する 措法第42〈1〉

別紙(六) 脱税額計算書

会社名 朝日食品株式会社

自 昭和58年9月1日

至 昭和59年8月31日

〈省略〉

(注) 1 課税所得金額欄中( )書は所得金額を表わす

2 昭和59年4月1日から同61年3月31日までの間に終了する各事業年度の所得は下段の税率を適用する 措法第42〈1〉

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